

スマートフォンの着信表示を見たら、妹の洋子からだった。
母親の面倒をいつまで看させるのかと、また、嫌味を言われると思いながら電話に出た。
「もしもし、伸一兄さん、今話せる」
「今、仕事も終わって帰宅するところだけど、何かな」
「母さんが、胸が苦しくて息が出来ないというので、救急車で大学病院に来たのだけど、このまま入院することになったのね、兄さんも来られる」
「え、母さんは大丈夫なの、医者はなんて言っているの」
「風邪をこじらせて肺炎になっているって、歳が歳だから入院しないと危険だって」
「わかった、今ちょうど会社を出るところだから、30分ぐらいで行けると思うよ」
「大学病院の救急外来だから、待合所で待っているから」
伸一は、慌てて机の上を片付けて、駐車場の自分の車に急いだ。
車に乗り込んで、こういう時に慌てると事故を起こすのだと自分に言い聞かせて、一旦、落ち着いてから、妻の理沙に電話した。
「俺だけど、洋子から電話があって、母さんが倒れて大学病院に救急搬送されたって、今から大学病院に行くから帰りは遅くなると思う」
「え、お母様は大丈夫なの、私も行った方が良いかな」
第1章 平凡な日々の終わり