「私は嫌だね。父さんから、子供達一人一人にアパートを相続させるように引き継いだから、私が売るのは嫌だね。墓の中で父さんに、何故売ったと叱られそうだし。お前たちが相続してから売るのは、仕方がないと思うけど」

母さんは自分では不動産を売却したくないのか。
父さんから受け継いだ不動産を守りたいのだろうな。
母さんの気持ちは解るけど、アパートを相続すると、管理だとか契約だとか、帳簿に確定申告など面倒な事が増えるだけだし、そもそも相続税など払えないし、やはり現金を貰えるようにしないと。 


「とりあえず、今回は問題意識の共有が出来たということで、不動産の現在の価値も確認しないと相続税の計算も出来ないから、不動産屋さんに不動産の価値の見積もりなど含めて色々と相談してみるよ。その結果を見て、もう一度、話し合いをしよう」

伸一兄さんが急に話を纏めだしたので、最後に一言だけ言う事にした。

「洋子が提案した、兄貴が不動産を全て相続して、銀行から現金を借りて、代償分割金を俺と洋子が貰う案も可能か確認してみてよ」

「それも含めて、先ずは不動産屋さんに確認してみるよ」

兄貴が唐突に話を纏めた感があるけど、横浜に帰る前に、妹と母さんにとりあえず謝って、3人で話をしておこう。
帰りに洋子の車で浜松駅まで送ってもらって、駅前の老舗鰻店で母親に鰻をご馳走になりながら3人で相談するようにしようと密かに考えた。

第2章 次男 清水 幸次 編