失敗した。洋子の怒りが、今度は俺に向かって来てしまった。

「なんだよ、洋子は佐藤家に嫁に出た身だろ。そんなに兄貴たちを責めるなよ。だいたい母さんも、ちゃんと二世帯住宅にした自分の家があるのだから、娘の嫁ぎ先の家で住むのをやめろよ。洋子の旦那の雄一君だって内心は困ってないのかよ」

まずい、自分も感情的に言い返してしまったと、言ってから後悔した。

「嫁に逃げられた男がうるさいね。あの時の慰謝料を返してもいないのに、洋子を責めるのはよしな」

元嫁の話は辛い。
それに、慰謝料の借金のことを言われると、何も言えなくなってしまった。


「ごめんなさい、私が口を出したから」

義姉が、泣きながらリビングを出ていった。
なんだか、姑と小姑に虐められている感じの義姉が、可愛そうに思えた。

「とにかく少し落ち着こうよ。互いを責め合っても何も得る物は無いのだから」

伸一兄さんは落ち着いているな。
でも、声に疲労感が出ているな。

「母さん、幸次と洋子は現金で相続したいみたいだけど、アパートを売る選択肢はありえるのかな」

伸一兄さんが、不動産売却の話に戻してきた。