洋子の車で、久しぶりに自分の家に帰って来た。
洋子が玄関を開けながら、声掛けをした。

「お兄さん、こんにちは、お邪魔します」

「洋子、お邪魔しますはないだろ、ここは私の家だ」

「今までは、お母さんが住んでいたから、『ただいま』だったけど、今は伸一兄さんと理沙さんが住んでいるから、私は『お邪魔します』でしょ」

まだ、この家は私の家なのだから、私と一緒に帰って来た洋子は、『ただいま』で良いと思うけどね。

子供達と一緒にいると、お父さんのことも思い出して、ここが自分の家だと実感が込み上げてくるのが判った。
伸一の家族との生活が息苦しくて居心地が悪く、洋子の所に行ったが、久しぶりに家に帰ってみると、洋子が一緒にいる今は息苦しさを感じ無かった。

家族会議は、やはり、私が死んだ後の相続の話だった。

「私ゃ、まだ生きているけどね」

思わず嫌味が口から出てしまった。

「母さんが元気なうちに、母さんの考えもきいておきたいんだよ」

「伸一、お前と嫁が、相続の話をしたいのだろ」

第2章 母 清水 多恵 編