私の死んだときの話なんて、嫌味の一つも言わなければ聞けないよ。

「母さん、今回の入院も先生から80歳という歳は、たとえ肺炎でも命にかかわると言われたし、5年前の父さんが突然他界してしまった時は、相続の準備が何もできてなくて慌てただろ」

「私ゃ、何も慌てては無かったけど」

「あの時は、資産が不動産に偏り過ぎていて、洋子も幸次も相続税が払えないというから、子供3人は相続放棄して、母さんに全ての資産を相続してもらったけど、今後、もし母さんに万が一の事があったら、今度は、父さんから相続した資産と母さんの資産が合わさって、高額な相続税になるから準備するように、あの時、税理士さんに言われただろ。洋子も、なんとか言ってくれよ」

私の前で、私が死んだときの話を平気でするのかね。

「確かに、あの時は、税理士さんからは、資産総額が多いので税務調査の対象になりやすいので、確実に資産を洗い出すように言われて、幸次兄さんが離婚した時に慰謝料を父さんから借りて返してないことが発覚して慌てたわよね」

洋子も、おもしろいことを言いだしたね。

「なんだよ、そんなこと今更言うなよ。洋子だって、今は母さんと一緒に住んでいるから、母さんから金など貰ったりしてないのかよ」

ここは黙って聞いていた方が面白そうだね。

「幸次も洋子も、ちょっと落ち着いてくれよ。今回の相続準備の話に戻してよいかな。
今度は、配偶者特別控除枠も利用できないし、高額な相続税になることは判っているのだから準備はしておかないと。母さんはどう思っているの」

第2章 母 清水 多恵 編