「え、そうなの。なら、母さんの預貯金を相続すれば、相続税を支払えるかな」

幸次は、自分の事だけしか考えてないと思った。

「多分無理だな。母さんが、父さんが他界してから、どれだけ貯め込んだかは判らないけど、父さんの相続の時の状況を考えると、母さんの預貯金を3人で分けても、たとえ2人で分けても相続税には足らないと思うな」

「母さんが元気なうちに、アパートと土地を売って現金化しておいてくれないかな。俺は現金で相続したいけど」

幸次が、不動産を現金化しておいてくれと言い出した。

「私も、さっき話したけど、まだまだ子供達にお金がかかるので、現金での相続の方が嬉しいけど。だけど、幸次兄さんの様に、私としては母さんに不動産を売れとは言えないな。それに、そもそも、父さんの相続の時に預貯金の現金が殆ど無かったのは、伸一兄さんの為に二世帯住宅にリフォームしたからでしょ。リフォームしてなければ、私も幸次兄さんも不動産と一緒に現金も相続して相続税を払えていたと思うけど」

洋子が、嫌な話を蒸し返してきた。

「あの時も説明したけど、あのリフォームは父さんや母さんが年老いてきて、二人だけで生活するのが不安になって、長男である俺たち家族が同居する為だし、父さんや母さんの為にバリアフリー化するのが目的だったから、仕方がないだろ」

「でも、今は母さんが私の家に来ているから、このリフォームした家は伸一兄さんだけが使っているし、結局、無駄なリフォームだったと思うけど」

洋子の言葉には、棘を感じてしまう。

第2章 長男 清水 伸一 編