「嫁に逃げられた男がうるさいね。あの時の慰謝料を返してもいないのに、洋子を責めるのはよしな」

母さんが昔の話を持ち出して、幸次を責めた。

自分は長男として、なんとか話を纏めたかったが、洋子も母さんも次第に過去の話を持ち出して感情的に相手を責め合うようになり言葉が出せなくなった。
俺自身も言いたいことは山ほどあったが、自分は纏め役だと思って相手を責めるような言葉は謹んでいた。

「ごめんなさい、私が口を出したから」

理沙が泣きながらリビングを出ていった。

「とにかく少し落ち着こうよ。互いを責め合っても何も得る物は無いのだから」

皆に落ち着くように言った。
洋子も母さんも、理沙が泣いて出て行ったので、黙った。

思ってもみない方向に話が進んでしまった。
やはり、相続の話は難しいと思った。
借金での代償分割金の話は、一旦棚上げにして、もう一度、不動産の現金化の話に戻すことにした。

「母さん、幸次と洋子は現金で相続したいみたいだけど、アパートを売る選択肢はありえるのかな」

「私は嫌だね。父さんから、子供達一人一人にアパートを相続させるように引き継いだから、私が売るのは嫌だね。墓の中で父さんに、何故売ったと叱られそうだし。お前たちが相続してから売るのは、仕方がないと思うけど」

第2章 長男 清水 伸一 編