
「私も、さっき話したけど、まだまだ子供達にお金がかかるので、現金での相続の方が嬉しいけど。だけど、幸次兄さんの様に、私としては母さんに不動産を売れとは言えないな。それに、そもそも、父さんの相続の時に預貯金の現金が殆ど無かったのは、伸一兄さんの為に二世帯住宅にリフォームしたからでしょ。リフォームしてなければ、私も幸次兄さんも不動産と一緒に現金も相続して相続税を払えていたと思うけど」
思わず、調子に乗って5年前の話を言ってしまった。
「あの時も説明したけど、あのリフォームは父さんや母さんが年老いてきて、二人だけで生活するのが不安になって、長男である俺たち家族が同居する為だし、父さんや母さんの為にバリアフリー化するのが目的だったから、仕方がないだろ」
ここまで来たら、もう少し、伸一兄さんを責めておくか。
「でも、今は母さんが私の家に来ているから、このリフォームした家は伸一兄さんだけが使っているし、結局、無駄なリフォームだったと思うけど」
「伸一兄さんは長男だし、リフォームして両親と一緒にこの家に住むのは普通だと思うけど」
えぇ、幸次兄さんは、伸一兄さんの味方をする。
仕方がないから、幸次兄さんも味方になってくれる案を出してみるかな。
「伸一兄さんが、不動産を全て相続して、伸一兄さんが私達に相続に見合う現金をくれない。何だっけ、前に税理士さんが言っていたやつ」
「代償分割金だろ。相続資産相当の金額を現金でもらうやつ。でも、無理だな。俺だって、そんな現金は持ってないぞ」
予想通りの答えが、伸一兄さんから返ってきた。
第2章 長女 佐藤 洋子 編