黙って聞いていようと思ったら、伸一は私にきくのかい。
そんなのは、子供達で考えろと言いたかったが、お父さんの気持ちも代弁しておかないと、と思って答えることにした。

「父さんは、3棟のアパートは、伸一と幸次と洋子に相続させるつもりだと言ってから、1棟ずつ相続して欲しいわね。自宅は伸一と理沙さんが既に住んでいるから、長男として相続してくれれば良いけど、その分、お墓もちゃんと相続して管理してよね。お墓は大事だからね」

お墓をちゃんと守ってくれないと、ご先祖様にも墓の中で顔を逢わせられないしね。
将来、墓を守る人が途絶えて、無縁仏にされたら死んでも死にきれないし。

「俺も理沙も、長男と長男の嫁としての義務は理解しているよ」

まあ、そうだろうね、伸一と理沙も同じ墓に入るのだから、嫁と一緒に墓に入ると墓の中も居心地が悪くなりそうに感じてきたよ。


「土地やアパートの話は解ったけど、現金はどうするつもりだよ。土地やアパートを貰っても相続税を払う余裕は無いから、相続税分の現金も欲しいのだけど」

幸次は、不動産を貰っても相続税が払えないと言うけど、相続と同時に売却するということは自分自身では考えられないのかねえ。
次男の幸次は無駄に金を使うだけの放蕩息子になってしまったね。
結婚した時には、少しは真面になったと思ったけど、惜しい嫁を逃してしまったよ。
幸次が相続するアパートは浜松市内でも好立地だから、資産価値は高いと思うけど、面倒くさいと言う気持ちが先にきてしまうのかね、豚に真珠なのかねえ。

第2章 母 清水 多恵 編