
「伸一兄さんも洋子も、母さんの前でやめろよ」
「幸次兄さん、良くそんなこと言えるわね。母さんの面倒も看ないで、勝手に横浜で独り暮らしを楽しんで、今回だって、母さんが入院していた時にも一度たりとも見舞いにも来なかったくせに」
完全に洋子を怒らせたね。
「なんだよ、洋子は佐藤家に嫁に出た身だろ。そんなに兄貴たちを責めるなよ。だいたい母さんも、ちゃんと二世帯住宅にした自分の家があるのだから、娘の嫁ぎ先の家で住むのをやめろよ。洋子の旦那の雄一君だって内心は困ってないのかよ」
今度は、私を責めるのかい。
私も、言い返すか。
「嫁に逃げられた男がうるさいね。あの時の慰謝料を返してもいないのに、洋子を責めるのはよしな」
あの時、幸次の嫁を逃がしてしまったのは、本当に残念だったね。
あの子は男系の家に生まれて、父親の兄弟も全て男だそうだし、兄も4人とも男だそうで、母親がどうしても女の子が欲しくて5人目に挑戦してようやく生まれた子だそうだから、そんな家庭で育った影響から言葉使いは悪かったけど、男の子を産む確率も高かったと思えたしね。
長男の伸一の嫁が、あの子だったらよかったのに。
それでも、幸次と結婚してくれて、清水家に一人でも男子の孫が生まれていたら安心できたのに、離婚してしまったのは本当に残念だ。
「ごめんなさい、私が口を出したから」
第2章 母 清水 多恵 編